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くわずにょうぼう

よっくはたらいて、飯を食わない女房がほしいなあ

男のそんな願いがかない、ちっとも飯を食わないでくるくるとよく働くおんなが嫁にきた。
これで蔵にはいりきらないほどの米がたまるぞ、とほくほく喜ぶ男。でもそれどころか蔵がほとんど空になっていた。
男はある日出かける振りをして梁にしがみつき女房の様子を見張ることにした。男が出かけたと思い込んだ女房は蔵から米俵を担ぎだし、釜に一俵の米ぜんぶ入れてじゃきじゃきと研ぎだした。そして釜戸の火ぼんぼんと焚いて米を炊き、戸板を外してその上ににぎりめしをこさえていった。女房が結い上げた髪をばらりと解くと、なんと頭のてっぺんにもうひとつの口があった。ぽいぽいと握り飯を放り投げれば頭の口はがぶがぶと飲み込む。男は恐ろしさで縮み上がった。

やっぱり一人のほうがいいから出てってくれ。

男の申し出に激怒した女房はその山姥の正体を見せる。見られたからは仕方ない、お前を連れて帰って山のものたちに食わせてやる。山姥は男をむんずととらえて桶放り込み、肩にのせて山へと走り出した。途中で疲れた山姥が座った隙に木の枝を頼りに逃げ出した男。きづかぬ山姥はそのまま山に辿り着くが、桶の中に男がいないのを知るや怒って引き返す。

男は菖蒲の花の生い茂る中に隠れたが山姥に見つかってしまう。これまでじゃ、と思ったとき、山姥は急に怯えだした。菖蒲の葉が剣となって男を守ったのだ。逃げ出した山姥はよもぎの葉の茂みに落ちて死んでしまう。常人にとって薬となるよもぎの葉の汁は悪い山姥には毒となるからだ。

                          くわずにょうぼう


この昔話は形を変えて広い地域に残っている。山姥か、蜘蛛あるいは大蛇が人に姿を変えて男の欲につけ入り腹を満たす。そして正体をみられて牙を剝くが、菖蒲とよもぎの`毒`にあたって命うを落とすというのがほぼ共通の筋だ。
読み終わって何かが腑に落ちないのであった。なぜなら、悪いのは山姥ではなくこの欲張りな男ではないのか?という思いがしてならなかった。おかしいのは飯を食わないでよく働く女房など欲しがるほうで、天罰が下ってしかるべき愚か者が助かりなぜ山姥が死なねばならないのか、そんなら私とて男前で稼ぎがよくて浮気も博打もしない子煩悩な亭主が欲しいぞと思う。

年を経て例のごとく少し違った考えを持てるようになった。ぜひ書きとめておきたい。

この男は聖人でも君子でもないのだ。飯を食わないでよく働く女房がいい、という願いは正しくないとしても人としては至極ふつうである。それに願ったというだけで、どこぞの娘を無理やり妻にして飲まず食わずで働かせたわけではない。だが、飯を食わないで働いてくれる女が向こうからやってきてしまった。それが災難でもあり、変だと思わずにほくほくと喜んでいた男の過ちでもあった。

この男は言うなれば「普通の人間」の典型である。日本の、あるいは地上の大半の男女が彼のような願いを持っていると思う。(もちろん程度の差はあろうが)
そして「普通の人間」たちは飯を食わない女房、あるいは男前で働き者の亭主があらわれるという「奇跡」に恵まれ喜んでしまうのだが、蔵が空になるという「痛い目」をみてやっとその「はかりごと」に気づくのであった。


つづく

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ayamiaktas

Author:ayamiaktas
筆者 尾崎文美(おざきあやみ)
昭和45年 東京生まれ
既婚 在トルコ共和国

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