にせウイルスに教わること   第一幕

  • 2011/06/07 08:27
  • よりわけ: 学問
トルコの学校は年度末。長い夏休みがやってくる。

去年の年明けから次男のクラスの演劇を半年ほど指導していて、発表を間近に控えていたのがちょうど今頃だった。
当時小四だった次男のクラスのために脚本も書いていたのだが、それが噂になったのか高学年(7.8年生)からなる有志の演劇グループから脚本の手直しを頼まれたのだ。

人から何かを頼まれやすい。体質か?
彼らにとっては外国人であるはずの人間に脚本を直せというのも不思議な話だが、まあ結局いつもの安請け合いをしてしまうのであった。

元の筋書きは一昨年から去年にかけて世界が大騒ぎした豚インフルエンザを扱った喜悲劇、担当教師は一切口出しせずに子供たちが自力で書いた力作だった。
力作だったのだが、子供たちは予期せぬ壁に当たってしまった。あれほど騒いだウイルスが、実はさほど殺傷力のない物ということが徐々にわかり、終いには製薬会社のヤラセだったということまで暴露されたため、主人公の少年が豚インフルエンザのために死んでしまうという結末がすっかり浮いてしまったのだ。

顧問は学校のトルコ語の先生、日本でいう国語の先生にあたる。曰く、教育者たる人間が今さらああしろこうしろと言ったのでは子供たちの努力が無駄になる。友達の立場で助言できるのはあなたしかいない。だそうな。つまりメンドクサイんでしょ?しかし頼まれたからには良いものを、それが日本人の生きる道なのだ。

子供たちによるオリジナル部分を第一幕にまとめた。筆者による変更部分は第二幕とした。。


第一幕

舞台はあまり出来の良くない姉と弟、両親、叔母の住むトルコの普通の家庭。子供たちが学校から帰る時刻。
母親とその妹である叔母がワイドショーを見ながら、豚フル怖い、予防接種しとこうか、注射キライ、病気より消費税のほうが怖い、などと埒の明かないことをべらべら喋る中、弟(主人公・1)が帰宅するが体がだるそう。

「勉強しないでほっつき歩いてばかりいるから風邪引くのよ!さっさと宿題でもしな!」と母親。
「でもこないだの模試で3652人中3534番目だったんだよ!」と反論する弟。
「やれば出来るじゃないか!さすがは俺の息子だ。」と全然わかってない父親。

夕食後に来客があるという電話がくる。母と叔母は具合の悪い息子を放ったらかしで茶菓子の支度をはじめる。
そこへ、難しい年頃の姉(主人公・2)が帰宅。服装が乱れていることに小言をいう母親。

「まったく何て格好だい!?こんな姿、人に見られたら一体何を言われるか知れたもんじゃないよ」
「さっさと着替えてちょうだい、もうすぐ口が悪いお客がくるんだから。」と叔母も釘を刺す。

何よりも大事なのは人の目か。と言いたげな少女。熱が出てきたと訴えても相手にされない弟。

「だいたいお前の躾が悪いから子供たちの出来がわるいんだぞ!」と母親を責める父親。
「なにさ!家に居たってテレビ見てるか寝てるだけのあんたにそんな事言われる筋じゃないわよ!」と攻め返す母親。
「あああ大変!きたわよっ!」叔母の声に我に返る夫婦。

トルコでは夫婦そろって来たお客というのは貴賓扱いをするのが習いである。実に厄介な風習で、どんな小さい不調法も末代までバカにされかねない。戦々恐々、襟元を正して客を迎える。

「まああまああ、坊ちゃんもお嬢さんもすっかり大きくなって、先が楽しみですこと、ほほほほほ。」やや気持ち悪い来客・妻。
「息子は成績も良くて、この間の模試では3652人中3534番目たということだし、ま、安心ですわい。」とまだわかってない父親。
「近頃の若いお嬢さん方はまあそれは凄い格好で歩いてるけど、厳しく躾けた甲斐あってウチの娘は大丈夫ですの。」と母親。
「そおですわよほんとにその通り。さっきもそこの公園で若いお嬢さんが男の子たちとタバコ吸っていたのを見ましたの。それがまあこーんなに短いスカートはいてねえ…こちらのお嬢さんによーく似ていたけれど、まあさかそん筈ないって、主人と話しておりましたのよお。」と来客・妻。どうやらこれをチクリに来たらしい事が推して量れる。

子供たちが「大人の虚構の世界」を醒めた目で見ている。彼らは劇を通して大人たちに挑んでいるのだ。

「ところで豚インフルエンザ!怖いですなー」と話題を変えようとする父親。
「イヤーまったく。忌々しい話ですわい。」と興味なさそうに来客・夫。
「ワクチンも豚のばい菌から作るって話ですわよ。私たちイスラム教徒には使えないってことですわ。」と知ったかぶりの母親。
「そうさねえ、ワクチンも豚抜きにしてもらわないとねえ。」ともうどーでもいいという感じの来客・夫。

それではもう遅いから、と席を立つ客、まだ宵の口ですよとその気もないのに引き止める家の主人。
客が帰るなり後ろから悪態をつく母と叔母。子供たちは実に雄弁だ。この劇を観る大人たちの心中やいかに。

おまえのせいで恥をかいた、と娘を責める父と母。
そこへ…

「誰かああ!大変、凄い熱!早く来てええ!!」と叔母の金切り声。

本来の筋書きでは、このあと息子の病気をめぐって大人たちが責任のなすり合いをしているうちにその子が死んでしまい、「市から豚インフルエンザの犠牲者がでたので気をつけましょう」という市役所のアナウンスで幕がおりる筈であった。残酷なようだが、逆この残酷さに気づかない子供の無垢な心を感じた。子を持つ親には、ましてや虚構の世界に足を突っ込んだ大人には、この結末はちと重い。


昏倒した少年にみな狼狽する。


暗転







関連記事
スポンサーサイト

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://turezurebana2009.blog62.fc2.com/tb.php/39-4475f0a3

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

書き手

ayamiaktas

Author:ayamiaktas
筆者 尾崎文美(おざきあやみ)
昭和45年 東京生まれ
既婚 在トルコ共和国

つれづれのかきこみ

さがしもの

こよひのつき

CURRENT MOON